「劔岳 点の記」

この映画は、日本映画史上最高の作品になるポテンシャルを秘めた映画だったと思う。だが、ご存じの通りそうはならなかった。
豪壮な食材をチョイスして並べた事に関しては感服以外の何者でもない。しかし、如何せん味付けが薄すぎる。全てに濃い味付けは必要ないが、あれだけ並べた食材の内2つ、3つあれば舌も満足したはずだ。薄い味付けは最後まで一貫しているし、それこそが描きたかった表現なのかも知れないが、それで得られない物の大きさを考えると、勿体ないよ、チクショー。
「リンダ・リンダ・リンダ」を観た時と比べモノにならないほどの勿体ない感。いや〜「俺の、俺だけの剣岳」を語らせたら、マジで朝まで寝させないぜっ!!って感じです。
まあ、他の人の感想をネット上で散聞すると、ストーリー自体や話の流れに抑揚がなかったというのが多いかな。ツレも途中寝てたし、まあ同じような感想を言ってた。淡々と話は進んで行くからね。


とにかく、置かれているコンフリクトの多さ(コンフリクトになりそうな物も含め)は半端無い。これをどれも詰めてかないのは、もう罪だよ、罪。


前人未到の山に登れっ!!と命令される。しかも、より有能そうな先輩(役所広司)は失敗した案件。言うならば、ミッターマイヤーが失敗した作戦をバイエルラインが拝命したみたいなもんだ。

○当初は測量しつつ登るだけが目的(登頂には失敗しても、言い訳効きそう)だったのに、マスゴミ登場で火のないところに煙を立てられ、日本山岳会との初登頂争いをするはめに。

○その日本山岳会は、洋式武装に身を固めたエキスパート達。「ヨーロッパじゃあ、これが主流なんですよ」と言われた日にゃあ、明治の日本人はみんなひれ伏しそうだ。ミニエー銃に刀で突っ込んでいくみたいなもんか。

○新婚で妻は宮崎あおいタン。いや、そりゃ生きて帰らなきゃだろ。

○相棒となる山の案内人は、現地では少数派。彼を雇い続ける限り、里の応援は得られない。でも、クレジットの二番目の役者だし、広告のポスターにもデンと登場させちゃってるし、今更クビに出来ないよね。

○さあ前哨戦。山のスペシャリスト香川照之と登坂ルートを探るも、何の成果も得られない。達成は無理感が大きくなって来たぞっ!!「半個艦隊でイゼルローン要塞を60日以内に攻略せよ」シトレ校長の顔が浮かんでくるよ。

○早朝の路地からの飛び出しで衝突した、トーストを咥えた女の子は学校に来たら転校生と紹介され、隣の席に座る確率と同じくらいに、魔法使い、馬主風のオッサン…とにかくジジイ系のキャラを助けると、金を使って願いを叶えてくれるか、重要なアドバイスをくれるもんだ。今回は後者。『If you build it, he will come…』。わかった、野球場を造れば良いんだね。まあ、聞いた人が、100人が100人、これが後々に重要な意味を持つんだろうな、と思うだろうよ。

日本山岳会とニアミスし、「剣岳に登るなんて遊びが過ぎる」と言われちゃう会長仲村トオル。ここはイデオロギーというか、心情の違いによるぶつかり合い。おお、南極点到達競争のアムンゼンとスコットみたいになってきたぞ。調査隊として、南極の生態研究での評価が高いのはスコットの方だが、勝ったのは純粋探検家のアムンゼン

○一度、東京に戻ってきたら、メンバー集結。生意気盛りの若者キャラは松田龍平。「妻が妊娠していて、産まれるのは登ってる途中」って、おいそれ死亡フラグだぞ。
もう一人のベテランはモロ師岡。う〜む、メンバー集結はもっと、嫌がってるのを引っ張ってきたりしないと。後、特殊技能の説明も入れて欲しい所だ。


この他にも、香川照之と息子の話とかもあんだけど、これらの設定が後々いろいろ衝突の原因になると思うじゃない、普通。いや、一応あるんだけど全部あっさり目なんだよね。


余力があれば、ネタバレ込みで『俺の剣岳』でも書きますわ。