「休暇」

「ランニング・オン・エンプティ」を観た際に、佐向大の脚本作品として知った。なかなかに評判は良かったので鑑賞。うん、行間を読ませるような作品で、小林薫西島秀俊の演技の重厚さにも安心して観れた。テーマを語らせるような事はせずとも、キチンとテーマは迫ってくる。重い読後感は、良作の証ですな。吉村昭原作。


「死刑執行時に【支え役】をやれば、一週間の特別休暇が与えられる」。
死刑執行に立ち会う刑務官の話だが、これは「死刑制度」の是非を問う作品ではない。西島秀俊演じる死刑囚金田もかなりフラットに画かれている。日常で接する人間として、(観客も)思い入れが入らなければ刑務官の葛藤を画けないし、かと言って彼が死刑を執行される事に疑問を抱いてしまえば、テーマがぶれてしまう。老夫婦の幻影と、金田の妹(今宿麻美)が老婆に道を尋ねられて泣き出すシーンなどで推察はされる。しかし、明確な提示はない。


小林薫演じる平井は、うだつの上がらない40過ぎの男(こういう役は小林薫はまるよな)。バツ1子持ちの大塚寧々(美香)との結婚が決まる。二人との距離を縮める事に苦戦する平井は、【支え役】を志願する。その休暇を二人との旅行に充てるために・・・。


平井が自分の気持ちを語るセリフは殆ど無い。一箇所だけ、上司に志願した事を非難された時に「あなただって、この仕事でメシを食べてるでしょうが!」と叫ぶところくらい。
でも、平井の覚悟は切々と伝わってくる。二人を【支える】こと、その為にどんな批判を同僚にされようが、どんなに寝覚めが悪い事だろうが、【支え役】をやる。そうまでした「覚悟」も、美香に「あなた、私たちのことに興味無いでしょ」と言われ伝わらない。ここら辺のやり取りは来たなぁ〜。【支え役】をやる事の意味や「覚悟」は結局平井にしか解らないからね。


とまあ、殆ど書いてしまったけど、ネタバレって事も無いし、驚くような展開も無いので。
「男」の誰かを背負うための「覚悟」って事を考えさせられましたよ。
大傑作とか、金をふんだんにかけた大作でもないけど、テーマが炙り出されてくる、行間を読ませる良作です。


しかし、本来当たり前なんだけど、こう演技巧者が揃ってる作品を観ると、主役級の誰かの演技が気になって・・・っていう作品て、本当にどうかと思うよ、全く。